京都地方裁判所 昭和37年(レ)83号 判決 1964年4月15日
控訴人(第八三号事件控訴人、第八四号事件被控訴人) 稲田猛
右訴訟代理人弁護士 立石恒三郎
被控訴人(第八三号事件被控訴人、第八四号事件控訴人) 福井庸夫
主文
原判決をつぎのとおり変更する。
控訴人は被控訴人に対し金五一、八〇五円およびこれに対する昭和三六年三月二日から支払ずみまで年二割の割合による金員を支払え。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
≪証拠省略≫によれば、被控訴人は、控訴人に対し、昭和三四年二月二五日、利息は一ヶ月五分、支払期日は同年四月二四日と定めて金八〇、〇〇〇円を貸付けるに当り、利息制限法による不利益を避ける目的で、即時二ヶ月分の利息の前払を受ける約定をあらかじめした上で、一たん金八〇、〇〇〇円を交付した後、即時二ヶ月分の利息金八、〇〇〇円を受領し、右貸金の支払確保のため控訴人所有のオートバイ一台を譲渡担保として受取り、控訴人債務不履行のときは被控訴人が任意に換価処分した上その換価金と債務額との間に清算をする旨約したこと、被控訴人は、昭和三六年三月一日(昭和三七年四月一一日付被控訴人の原審準備書面の記載により一日と認定するのが相当である)、担保のオートバイを訴外野間憲治に金五〇、〇〇〇円で売却し、右代金を控訴人の本件債務の弁済に充当したことを認めることができる。遅延損害金の約定については、その定めを認めうる証拠はない。
ところで、利息の天引とは、消費貸借契約の際に、約定元本額について利息を計算し、その利息をあらかじめ元本額から控除することであるが、本件のように、即時利息の前払を受ける約定をあらかじめした上、一たん約定元本額を交付した後、即時利息の前払を受けた場合は、利息制限法第二条の適用を受けると解するのを相当とする。
したがつて、右天引相当額金八、〇〇〇円のうち、実質的な受領額金七二、〇〇〇円に対する弁済期まで五八日間の利息制限法による年二割の割合の利息金二、二八八円を超過する金五、七一二円は、元本八〇、〇〇〇円の支払に充てたものとみなされるから、これを差引いた残額金七四、二八八円が、昭和三四年四月二四日の弁済期に控訴人の支払うべき金額となる。
よつて、担保物処分による弁済の充当について判断する。
本件のように、利息制限法第一条第一項の制限を超える約定利率の特約が存するにすぎない場合は、同法第四条にいう債務不履行による賠償額の特約があつたものとはいえないから、損害賠償額は、約定利率を同法第一条第一項の制限に引き直した利率によるべきである。
したがつて、弁済期の翌日から担保物処分の日まで一年と三一日間の、年二割の割合による遅延損害金二七、五一七円に充当すると、担保物売却代金残は金二二、四八三円となり、次いでこれを右元本残金七四、二八八円に充当すると昭和三六年三月一日現在の元本残は金五一、八〇五円となる。結局控訴人は被控訴人に対し貸金残金五一、八〇五円およびこれに対する昭和三六年三月二日から支払ずみまで年二割の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
最後に、控訴人の相殺の抗弁について判断する。
処分権取得型の譲渡担保の目的物の価格が弁済期限徒過後処分までの間に下落しても、特別の事情のない限り、債務者は債権者に対し右下落による損害賠償の請求をなしえないと解するのを相当とする。
けだし、債権者は、債務の履行がなくとも、担保権を実行する義務を負うものではなく、債務者に対し被担保債権にもとづく請求もできるし、債務者は被担保債権を弁済して担保物の値下りの損失を防止しうるからである。
本件において、右特別の事情を認めるに足る証拠はない。
控訴人の相殺の抗弁は採用しえない。
よつて、被控訴人の本訴請求は、上記認定の限度において正当として認容し、その余の請求を棄却すべきであり、これと異る原判決を変更し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 乾達彦 堀口武彦)